12.23.2013

「第3回鎌倉ハイカーズミーティング」の振り返り vol.3


ライターの根津です。振り返りvol.3をお送りします。
今回が、振り返りの最終回となります。

vol.1ではワークショップ、vol.2ではノウハウを紹介してきましたが、vol.3ではハイキングスタイルにフォーカス。さまざまな人が、その人ならではの体験談を披露してくださいましたので、その概要をお伝えいたします。


Hiker’s DelightH.B.M座談会

Jackie(ジャッキー)、Boo(ブー)、Takemichi(タケミチ)Kuro(クロ)Oson(オソン)5人のハイキングブロガーによる座談会。それぞれユニークなブログを持っており、ハイカー界隈では知る人ぞ知る存在である。ちなみにH.B.Mとは、ハイキングブロガーミーティングの略。

座談会のテーマは、「クッカーって、なに使ってる?」
ここでは、クッカーの写真と各自のコメント(一部)を紹介する。


【Oson】Blog:EASYHIKING



12日単独行を想定したセットです。アルコールストーブにチタンの五徳、チタンのクッカー、チタンの風防と、これといって特別なものはなくベタな感じだと思います。料理はあまりしないので、お湯を沸かせれば充分。ただレトルトのカレーを好んで持っていくので、深めのクッカーを使ってます。ラーメンのリフィルもここに入れて食べています」




【Kuro】Blog:RIDGE



「ふたりで行く際のセットです。その名も、ツーパーソンポットセット!MSRのチタン2ポット、トランギアミニセットのフライパン、オリキャンプのストーブ・・・重量は気にせず、デザインが気に入ったものを選んでいます。そのほうが長く使えるんじゃないかと思っているんで。じつはジェットボイルも持っているんですが、まったく使ってなくて。カスタマイズできないので面白くないんです。クッカーって、違うメーカーのもの同士を組み合わたりするのが楽しかったりするんですよね」




【Takemichi】Blog:登ったり、漕いだり。



「以前、アルコールストーブにチャレンジしたけど、わずらわしくって。 やっぱりガスが簡単でいい。ULハイカーがガスだっていいじゃないか!と言いたい。トランギアのミニセットやエバニューのチタンクッカーを持ってはいますが、ご覧のとおりキズひとつなく・・・。基本的に料理はしなくて、山小屋で買ったりして済ませています(笑)。もはやクッカーいらずじゃないかと言われるんですが、つい持っていっちゃうんですよね」




【Boo】Blog:dubclear mountain



「料理しながらお酒を飲んでダラダラするのが好きなので、ユニフレームのミニロースターをよく持っていきます。ガス缶はSOTO。白のカラーリングがかわいくてまとめ買いしました。クッカーのコジーは、ナルゲン(1L)の保温ケースをカットしたもの。これがスノーピークのチタンシングルマグ600にピッタリはまって、スタッフサックいらず。ただ目盛りがないので、お箸に100mlごとの線を書いて、水の量が計れるようにしています」




【Jackie】Blog:blues after hours



「トランギアのミニセットを愛用しています。お米が炊けるし、フライパン付きなので目玉焼きとかいろいろできる。難点は炊いているあいだ鍋が使えないこと。ただ、ワンダーラスト・エクイップメントのグリースポットが、 ミニセットとピッタリはまるサイズだとわかって。いわゆるシンデレラフィットってやつです!一緒に持っていくとお鍋がふたつになるので、固形燃料でお米を炊きつつ(右)、 グリースポットですき焼きをする(左)。こうやってツーバーナーで料理することができるようになりました」





山と道が歩いたニュージーランドトレイル

山と道の夏目夫妻が、2012年、2013年と2回にわたり歩いてきた(合計約1,000km)ニュージーランドのトレイルを紹介した。同国の山々は、夫妻の好きな映画「ロード・オブ・ザ・リング」の撮影地でもあり、より印象深い旅になったという。



魅力のひとつは、どこまでも広がる原野。
道がなく胸まで草が伸びている草原があったり、徒渉を繰り返して歩く渓流など手つかずの自然が豊富にある。また、多種多様な苔があり、なかには木々が黒い苔で覆われ「風の谷のナウシカ」に出てくる腐海の森のようなところもある。まるで魔法の国にいるかのような感覚に包まれるそうだ。

次に魅力として挙げたのが、ハットと呼ばれる山小屋の存在。



基本的には無人で、日本でいう避難小屋的なもの。しかしそのクオリティには雲泥の差があり、多くのハットには暖炉もしくは薪ストーブのほか、ベッド、炊事台、テーブルなどが完備されている。火をおこし、それを囲みながら料理を食べたりお酒を飲んだりするのが、至福の時間でもあるのだ。

テント泊ではなく、原野を歩きながらハットに泊まる旅。それがニュージーランドのハイキングスタイル。奥さんの由美子さんも、「ハット泊まりなので精神的にもラクですし、雨のなか苦労してテントを張る必要もないので、私はこのスタイルが大好きです」という。

さらに、歩くだけではないのも魅力のひとつ。



途中、数日間かけてカヌーで川を下ることもある。ふたりともカヌーははじめてだったが、川幅が広く、流れも緩いので初心者でも大丈夫とのこと。カヌーはレンタルで、川辺までクルマで運んできてくれて、指定の場所で返すのだという。

日本ともアメリカとも異なるニュージーランドのトレイル。
興味を持たれた人は、ぜひ山と道のブログをチェックしてみてほしい。よりリアルなニュージーランドを感じることができるはずだ。




銀山トレイル

トレイルカルチャーを発信するウェブマガジンTRAILSの佐井夫妻と、島根の魅力を伝えることを目的としたSHIMANE PROMOTIONの三浦兄弟。この2社は、同郷つながりをきっかけとして、ハイキングで楽しみながら地元について考える「銀山街道プロジェクト」を2013年スタートさせた。

石見銀山から尾道まで、約400年前に整備された130kmの銀を運ぶ道。今回、この旧街道を仲間とともに45日でつないだハイキングトリップを、スピーカーである佐井夫妻と三浦卓也(弟)氏が紹介した。



旧街道を歩くとはいっても、それは決して容易いことではない。なぜなら、ルートがはっきりしていない箇所もたくさんあるからだ。道の特徴は、幅が2m10cmであること。動物で銀を運ぶ際に適した長さであるそうだ。また現代の道路と異なり、家のすぐ裏を通っている。そういった情報と、GPSおよび複数の地図を組み合わせつつ、さらに通りすがりの地元の人に聞いたりしながら、旧街道を探り探り歩いていく。大変な作業ではあるが、決められた道を歩く以上に、面白みのあるハイクでもあるのだ。

舗装路と自然歩道が交互にやってくるようなこのトレイル。想像以上の舗装路に対して、佐井氏は、ここを歩いて楽しいのだろうか?という思いが芽生えたという。しかし、以前ハイカーズデポの長谷川さんと別のトレイルを歩いた際に、「もっと先に行きたいと思ったならば、自然歩道に縛られずに舗装路も歩くことは、ごくごく自然なことだよね」と言われたことを思い出したそうだ。

いろいろなカタチのトレイルがあっていい。そういった間口の広さ、自由度の高さが、楽しさにつながっていくのである。

また旧街道には、休憩できる東屋のような建物が一定のサイクルで現れる。



ここで休憩をしながら歩いたのだが、この他にも常夜灯があったり、道標があったりと、歴史を感じさせるものをたくさん目にすることができるのも特徴的だ。

街道上にある「やなしおの道」は、銀山トレイルのなかでもハイライトと呼べるセクション。版築という昔ながらの特殊な工法により、草が生えていないところが多い。それを感じながら歩くのが楽しいという。

最後に、佐井夫妻と三浦氏はこう言って締めくくった。
「歩いてみて思ったのは、銀山街道、石州街道、出雲街道と呼び名が複数あること、そして道標も各自治体で異なり分かりづらいこと。まずは、ここから整備していこうという話を銀山街道を守る会の人ともしているんです。トレイルをつくるのは大変なこと。でも一生やれるし、一生遊べるとも思う」。

ただ歩くだけではなく、地元の道を大事にして、活かしていく。
今回の銀山街道に限らず、他の地域においても参考になる内容だった。




北ア19

豊嶋秀樹氏による、北アルプス19日間、山小屋も積極的に利用したツェルト泊のライトウェイトハイク報告。豊嶋氏は、作品制作、空間構成、キュレーション、イベント企画などジャンル横断的な表現活動を行なっており、山と道との共同プロジェクトである「ハイクローグ」も制作している。

山登り歴は数年という豊嶋氏。以前は、80リットルのバックパックを満タンにして歩いていた。無補給で10日間歩いた際は、かなりしんどく、これ以上長く歩くのは無理だと思ったという。しかし、夏目氏と出会って影響を受け、ライトウェイトにしていくことで、長い距離も軽快に歩けるようになった。

そうして思い立ったのが、北アルプスを3週間かけて歩くこと。

日本海側から穂高ぐらいまでだと、10日間もあれば歩けてしまう。穂高を折り返して立山のほうまで行けば3週間ぐらいになるだろう。一筆書きでいちばん長く歩けるコースでもある。くわえて“J”というスペルにも見える。ジェイの字を歩く、ジェイ歩き、J-WALK・・・ということで、もはやこれ以外のルートは考えられなくなってしまったとのこと。



台風が来ていたこともあり、かなり風雨にさらされたハイクだった。

3日目の白馬岳頂上小屋では、テント場でのツェルト泊。しかし、雨がひどく1泊後に山小屋に駆け込むことに。じつは山小屋泊が初めてだったが、客が自分だけだったこともあり、小屋の主人と一緒に酒を飲んで楽しんだ。また、本棚にあった北アルプス山小屋ガイドというムック本を読み、自分の地図に書き込んで参考にしたという。

また、船窪小屋では出発する際に小屋の人がずっと手を振ってくれたり、三俣山荘では展望食堂でオムライスを食べ、黒部の山賊を買ったり。基本はツェルト泊だったが、山小屋での食事なども楽しんだ。13日目には奥さんと合流し、一緒に北上。室堂山荘では温泉を満喫したそうだ。



豊嶋氏いわく「なにかすごいことをしたわけではないが、なにはともあれジェイウォーカーになることはできた」とのこと。

自分で自分なりの道を描き、自分なりの楽しみ方を実践する。
ハイキングに良い悪いもないのである。「どこのコースがオススメですか?」と聞きたくなる人もいるだろうが、その前に、一度自分でルートを描いてみてはいかがだろうか。きっと誰も知らない、何にも縛られない、あなただけの楽しいハイクが待っているはずだ。




Hiker meets PACKRAFTING

3回鎌倉ハイカーズミーティングのラストを飾ったのが、こちらのプレゼンテーション。スピーカーは、ウルトラライトハイキングとロングトレイルの専門店「ハイカーズデポ」の店主、土屋智哉氏である。

今回、ハイキングの可能性を広げる道具のひとつとして彼が紹介したのが、パックラフトというゴムボート。空気を入れて膨らませる小型&超軽量のゴムボートである。ボート、パドル、 ライフジャケット全部あわせて4kg程度。+kgを背負うことで川下りもできるのだ。ハイカーがテントや寝袋、バーナーを買うのと同じように、遊び道具のひとつとして考えてみてもらえればとのこと。



そこで、土屋氏自身がパックラフティングを行なったシチュエーション、国内外あわせて4カ所を取りあげて話をしてくれた。

一つ目は、栃木県から茨城県に流れる那珂川(なかがわ)。
サケの遡上もみられ、流れもゆるやかでのんびり下れる川。ここもそうだが、日本の川は電車で行けるのがいい。スタート地点まで電車に乗り、川を下って、ゴール地点でまた電車に乗る。初めての人は、那珂川のような流れのゆるやかな川で慣れるところからはじめるのがオススメ。歩くことと一緒のイメージで、川の上でハイキングをすると思えばいいそうだ。

二つ目は、沖縄県の西表島。
西表島の縦断。河口から上流に向かって漕ぎ、途中で登山道に入って山を越え、反対側の川から河口まで下る。ボート自体が小さくて機動力があるので、支流をはじめ狭いところにも入っていけるのが面白い。また西表島には縦断道があり、地図があれば基本迷うことがない。ハイキングと川下りを一緒に楽しむことができるとのこと。

三つ目は、アメリカのロッキー山脈が縦断するワイオミング州。
西表島と同じく、川を下って峠をこえて反対側の川へ行く。ワイオミングでは急流もあったが、そこに対応できるのがパックラフトのいい所。カヤックだと下れないような箇所でも大丈夫。それほど安定性に優れている。だから、急流だけに注意が必要とはいえ、パックラフトを始めて1〜2年の人でも充分対応できるという。

四つ目は、パックラフトが生まれた地であるアラスカ。
現地では、1980年代から旅をする道具として親しまれている。土屋氏が足を運んだところは、北極圏のさらに上にあるブルックスレンジ。そこを流れるジョンリバーという300kmくらいの川を下る。所々、水深が浅い場所もあったが、その際はボートを引っ張って行ったり、あるいは背負って歩いて迂回したり。こういう臨機応変な対応ができるのもパックラフトの良さだと語る。



土屋氏が4つのエピソードを通して強調していたのは、「背負えるボート」であること。
特に日本であれば、川も川沿いの道も多い。ハイキングの新たなカタチとして考えると、楽しさがもっともっと増していくことだろう。


ーーー


以上で、3回にわたってお送りした「第3回鎌倉ハイカーズミーティングの振り返り」が完結となります。

いかがでしたでしょうか。「ハイキングはこうでなければいけない」という決まりは、いっさいありません。この3回の振り返りを通じて、一人ひとりがそれぞれのスタイルで楽しんでいることをお分かりいただけたと思います。

ハイキングは自由であり、まだまだ可能性を秘めた遊びです。興味を持った人自身が、まずはやってみて、自分なりのスタイルや楽しみ方を創造していく。そこに面白さがあるのです。

ハイカーの、ハイカーによる、ハイカーのためのイベント「鎌倉ハイカーズミーティング」。
来年も開催予定ですので、ぜひ足をお運びください。









根津 貴央(ねづ たかひさ)

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。アウトドア関連の雑誌を中心に活動するフリーランスライター。2012年、2013年と連続でアメリカ3大ロングトレイルのひとつ「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)」を歩く。2012年のときに山と道サコッシュを使っていたことがきっかけで、夏目夫妻と知り合う。現在、BE-PALのWEBサイトでPCTの紀行文を連載中。Facebookページはハイカー根津