12.16.2013

「第3回鎌倉ハイカーズミーティング」の振り返り vol.2


ライターの根津です。振り返りvol.2をお送りします。



前回の内容はワークショップ中心でしたが、今回は歩き方やギアの紹介&使い方、パッキングのコツなど、Tips中心の内容。興味を抱いたポイントがありましたら、ぜひ自分のハイキングスタイルに取り入れてみてください。



ナチュラルラン+ハイク講習


「ナチュラルラン」という言葉をご存知だろうか?
直訳すると、自然な走り。実はいま、多くの人の走り方は自然ではない。結果、元来人間が持っている体の機能が充分に使われなかったり、過度な負担がかかってケガをしたりする。そこで、本来の自然な走り方を学ぼう、というのがこの講習の目的である。

原理原則は、走ることだけではなく歩くことにも共通するため、ナチュラルハイクという言葉自体はないが「ナチュラルラン+ハイク講座」としている。

講師は、アルトラやルナサンダルの日本における代理店である株式会社 ロータスの福地孝氏。彼はトレーナー兼アメリカナチュラルランニングコーチ有資格者で、ナチュラルランニングのプロフェッショナルである。


講座では、まず「ナチュラルラン+ハイク」の基本概念の説明から。次に、参加者全員で目をつぶりその場で5回足踏みをする。すると、ほとんどの人のつま先は外側に向く。これはどういうことかというと、走った(歩いた)ときに体がまっすぐ前に動くのに対して、足はまっすぐではなく外に向いているということ。結果、足首の関節が内側に倒れ込み、ねじりの力が加わることで関節への負担が増え、ヒザが痛くなったりするのだそうだ。正しいフォームは、つま先、ひざ、腰、背中までが真っすぐに揃うことである。

そして今度は、全員裸足になる。両手で耳をふさぎ、歩いてみる。最初の4歩はミッドフット/フォアフットストライク(つま先側での着地)、次の4歩はヒールストライク(かかと着地)と、交互に着地の仕方を変えて進む。後者の場合、かなりの衝撃音が聞こえてくる。この目的は、足からのシグナルに耳を傾けること。

裸足で捻挫をする人はいないという。足を必要以上に守るシューズを履けば履くほどシグナルは聞こえず、衝撃に鈍感になり、ケガにつながってしまうのだ。裸足になれば、自然と小股になり衝撃を吸収する動きが生まれるのである。それが、人間に備わっている能力なのだ。





実は私も、ナチュラルラン(ハイク)を実践者である。アメリカ3大ロングトレイルのひとつPCTを歩く前、福地氏の座学を受けた。PCTのスルーハイクには600万歩を要すると言われており、負担を軽減してケガを防ぐべく意識するようになったのだ。くわえて、道具に頼りすぎず、自分の能力や創意工夫を最大限活かすという行為は、ウルトラライトハイキングの考え方にも通じる。これも、ナチュラルラン(ハイク)に関心を抱いた理由である。

ナチュラルラン(ハイク)のメリットをまとめると下記のようになるだろう。

1)人間が持っている機能を充分に発揮できる
2)走る(歩く)際の安定感が増す
3)ケガの予防になる

少しでも興味を持った人は、ぜひアルトラのサイトを見てほしい。より詳しい情報はもちろんのこと、ナチュラルラン(ハイク)を行なう上で最適なシューズも紹介している。



タープ講習


山小屋ではなくテント泊をする際、多くの初心者が自立式テントを選ぶ。しかし、テントはあくまで野営時におけるシェルターのひとつであり、その他にもフロアレスシェルターやツェルト、タープなどがある。

なかでも、タープは「設営が難しそう」「密閉感がなく不安」というイメージから手にされにくいが、実際は非常に使い勝手がよく機能的なシェルターである。

そこで今回、タープの魅力を伝えるべく、初心者向けの体験講座が行なわれた。

講師は、ハイカー“BB”としてウルトラライトハイキングをいち早く実践し、「ハイカーズデポ ハイカーサコッシュ"BB"スタイル」の産みの親でもある、細田隆氏。ジョン・ミューア・トレイルのスルーハイカーでもある。


一般的に、2本のポールを用いた張り方(写真右)がオーソドックスだと思われている。しかし、実はこのスタイル、手間もかかるし、結露も多いし、どちらかと言えば非常用。天気がいい場合であれば、1本のポールだけを用いた張り方(写真左)のほうがラクである、という説明から講座はスタートした。

タープの利点のひとつは、撤収の容易さ。
そこで、細田氏自身がタイムを計測しながら撤収をしてみる。すると、たった30秒で済んでしまう。一方テントの場合、逆さにして乾かす必要性もあったりして、なんだかんだで30分以上はかかってしまうことが多い。

次に、ふたたびタープを設営してみる。結果、タイムは50秒強。1分足らずで張ることができるのだ。講師がベテランだから早いのでは?と思われるかもしれないが、そうではない。実際、参加者にやらせてみたところ、大差ない時間で設営することができた。これには、参加者の方々も一様に驚いていた。

写真:漆戸美保


タープは、一枚の布であり、非自立式ということから、扱いが難しいと思われがちである。初心者に勧める人も少なく、事前によく練習しておくように言われたりするのだが、実はそうではないのだ。

私もタープ愛用者である。今年の9月から1カ月にわたりPCTを歩いたときも、毎日使用していた。

タープのメリットをまとめると下記のようになるだろう。

1)設営・撤収がカンタン
2)とても軽量である
3)自然との一体感が味わえる




密閉度が低く開放的がゆえに、テントに比べて危険や不安を抱く人が多いのは事実である。しかし、細田氏は安心感と安全は異なると考える。たとえば安心感を得ようとしてテントを用いた場合、自分を取りまく自然を「見えないもの」「感じないもの」として 遮ってしまう。安心感はあるかもしれないが、安全かというと決してそうではない。自分の周囲に気を配れるような環境に身を置くことこそが、より安全なのだ。




メーカープレゼン(山と道)


山と道の夏目彰氏によるプレゼン。バックパックMINIを用いて、パッキング術を披露した。


寝袋は、山と道の発送用袋(ポリエチレン製)に入れ、さらにパックライナーに収納する。ロングハイクの際は、この両方を使用することが多いとのこと。長期ではない場合は、発送用袋のみ。理由としては、ナイロンをコーティングしたパックライナーより防水性が高いと考えているからだそうだ。また替えの衣料品や行動着などもナイロンのスタッフバックを使わずに、防水性の高いジプロックに収納しているとのこと。

ちなみに、寝袋はアメリカのガレージメーカーJacks ‘R’Betterのもの。防寒着としても着用できる構造になっているため、ダウンジャケットいらずである。

またスリーピングマットは、バックパックの背面パッドにしているMINI付属のミニマリスト・パッドと、休憩時にも使える短いバックパッド15+(バックパックに外付け)を組み合わせて使用している。

最後に、雨が降って来たときには・・・と言って、バックパックを背負ったままゴーライトのクロムドームをさっと取り出す。その所作がとても美しかった。


背面パッドをスリーピングマットに、寝袋を防寒着に。
兼用できるギアを用いることで軽量化を図る。これは、まさにウルトラライトの手本と言えるだろう。




メーカープレゼン(OMM)


UKのアドベンチャーレースブランドであるOMM(オリジナルマウンテンマラソン)。その日本代理店である株式会社ノマディクスの千代田高史氏、小峯秀行氏によるプレゼン。主に、OMMの代表的なバックパック、クラシック25Lクラシック32Lの紹介を行なった。


OMMのバックパックは、ファストパッキングで使用される。ファストパッキングは、スピードハイキングと同義であると捉えていい。簡単に言えば、ハイキングに走るという要素を加えたものである。

OMMが開催しているレースにおいて、走る際に欠かせないのが軽量化。ウルトラライトとクロスオーバーする部分があるため、同ブランドのバックパックは、いまやULハイカーやトレイルランナーにも支持されているのだ。


特徴は、背面長の短さ。腰荷重はいっさいなく、背中のみで支える構造である。ショルダーストラップを引いて、できるだけ荷重を肩から肩甲骨のあたりに持ってくる。そうすることでバックパックが背中と一体化し、走っても左右に振られることがないのだ。

すでにファストパッキングを実践している人はもちろんのこと、ハイカーやトレイルランナーにも試してほしいバックパックである。





メーカープレゼン(ハイランドデザイン)


ウルトラライトハイキングとロングトレイルの専門店「ハイカーズデポ」の土屋智哉氏によるプレゼン。同ショップでは、ハイランドデザインというブランド名で、オリジナル商品を展開している。


今回紹介したのは、新商品であるウィンターダウンバッグUDD

従来、湿気によるダウンの機能低下に対する解決策は、ダウンのシェル表面の撥水コーティングであった。しかし、表面を撥水加工すると、発汗等による内側からの湿気が放出されず結露してしまうという欠点があった。

そこで考えたのが、ダウン自体に対する超撥水加工。
撥水ダウンは水をはじくだけではない。撥水加工によりダウンにハリとコシが生まれ、圧縮しても戻りやすくなる。つまり復元力が高いため、かさ高(ふくらみ)が維持され、結果、温かさが保たれるのである。

しかも、重量は−12℃以下の冬用としては驚きの885g。詳しくは、同ブランドのサイトに譲るが、非常に画期的な寝袋である。


最後に。プレゼンで印象的だったのは、土屋氏が聞き手に対してこの商品を押し付けるのではなく「あくまで選択肢のひとつとして」と話していたこと。そこには、ウルトラライトハイキングというものは、ウルトラライトギアを揃えることとイコールではない、という考えがあるからではないだろうか。






筆者プロフィール






根津 貴央(ねづ たかひさ)

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。アウトドア関連の雑誌を中心に活動するフリーランスライター。2012年、2013年と連続でアメリカ3大ロングトレイルのひとつ「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)」を歩く。2012年のときに山と道サコッシュを使っていたことがきっかけで、夏目夫妻と知り合う。現在、BE-PALのWEBサイトでPCTの紀行文を連載中。Facebookページはハイカー根津