山と道では今回から、先日このブログでも書いた生地だけでなく、キューベンファイバーをはじめとした生地を新しく採用していく予定です。新しい生地を採用していくにあたって、これまで検査してきた生地の強度と重量の比較、それぞれの生地の特性、長所と短所を、自分たちなりに書いてみました。
山と道ではウルトラライトギアに使われる薄い特別な生地に関して、メーカーや生地の卸問屋が発表する生地の検査結果だけでなく、自分たちでも、日本の検査機関を通じて生地の強度を調べています。
生地の強度の目安として、引張(ひっぱり)強度と引裂(ひきさき)強度があります。他にも様々な検査方法があるかと思いますが、山と道ではこの二つの検査方法を基準としています。実際にはこの二つの検査結果が全てではなく、後ほど、自分たちの実際の経験を元に、可能は範囲で自分たちの私見をまとめたいと思っています。
全ての生地の検査は日本の検査機関、株式会社BMLフードサイエンスを通じて実施しました。引張強度検査はラベルドストリップ法、引裂強度検査はペンニュラム法で行っています。生地によっては...両方の検査を行ってない生地もございます。
検査した生地
1.3oz Silicone Coated Ripstop Nylon (aka SilNylon)
シリコンを両面浸透させた30デニールのナイロンリップストップナイロン。軽量でありながらも強度が非常に強い素材。弱点としてシリコンのコーティングに接着材などが効かなく、補修・修理などがしずらいという問題を持ちます。
70 Denier PU Coated Ripstop nylon fabric
防水性に優れたPU(ポリウレタン)コーティングの70デニールリップストップナイロン。リップストップとは、裂け(リップ)止めの事で、グリッド上に太い生地が織り込まれた生地は、生地の裂目が広がるのを止めるようにデザインされています。
Fibermax 64(Spinnakers)
硬化コーティングが施された世界で最も耐久性に優れていると言われているナイロンリップストップ。ヨットのスピンネイカーに使われるこの素材は、シルナイロンよりも強度を持ち、軽く、張りがあり、発色のとても美しい素材です。弱点として硬化処理の為に、ナイロンの長所でもある伸縮性が阻害され、一定以上の強い力がかかったときに生地が簡単に破損する事があります。
70D PU Coated Diamond Ripstop Nylon
気球に求められている強度、耐久性、耐紫外線、耐細菌などの高い性能問題をクリアする為に、アメリカの気球メーカー、レーブン・エアロスター社が、いくつかの協力会社と共に作り上げた素材。レーブン・エアロスター社は、アメリカ軍需産業の一翼を担う会社で、ファブリックなどを扱う軍需用品などの製造開発を行う企業でもあります。
その技術が盛り込まれたこの素材は、通常のナイロン素材に比べて格段に耐紫外線強度を高めたソーラーマックスナイロンを、ミリケン社によりダイヤモンド状に織る事によって従来のリップストップナイロンよりも強度を高め、特殊素材加工に精通したパフォーマンステキスタイル社により最上級のPUコーティング処理が施されています。
CTF3 Cuben Fiber
通称キューベンファイバーは、世界最軽量の特別なアウトドアギアの多くに使われています。ダイニーマ繊維をUV樹脂でフィルム状にラミネートしたこの生地は、耐紫外線性に優れ、防水、高強度を有する超軽量素材として注目されています。
ダイニーマ繊維は超軽量、超強力なポリエチレン繊維です。重量ベースで比較した場合、鉄の15倍、アラミド繊維の40%以上の強さをもっています。山と道では2種類のキューベンファイバーを用意する予定です。
CTF3 Cuben Fiber / CT3.5k.18 Black color
CTF3 Cuben Fiber / CT9K.18 White color
Codura Nylon Rip 218 (参考)
コーデュラは、耐久性に優れたナイロンファブリックに対するインビスタ社のブランド名になります。コーデュラファブリックは強度のあるナイロンファブリックの象徴的な生地として認識されているのでは無いでしょうか。コーデュラリップは66ナイロンで織られた極薄のコーデュラナイロンの表面にシリコンコーティング、裏面にPUコーティングを施しています。防水性と強度、生地の取扱い易さを求めた結果として表面、裏面にそれぞれ違うコーティングを施したのでは無いかと推測します。参考資料として比較してみました。
330 DENIER CORDURA(参考)
ヘビーデューティな中、大型バックパックの本体生地や、小型、中型のバックパックのボトムに使われる耐久性の高い生地。同一の検査機関で検査をしておりませんが、参考資料として比較してみました。
生地の重量比較
重量ではシルナイロンが一番軽く、種類の多いキューベンファイバーの中から、シルナイロンとほぼ同等の重量のCT3.5k18と、70デニールのリップストップナイロンよりも少し軽いCT19K.18を用意しました。中・大型のバックパックの本体生地にも使われる330 DENIER CORDURAとの重量の差は歴然です。
引張強度検査:生地の引張りに対する強さを調べる試験。生地を引張り、引き裂けるまでにどれだけの力に耐えられるかを調べます。
重量比で3倍以上も重たい330 DENIER CORDURAよりも、CT19K.18の方が引張強度では強い結果になりました。一番薄いシルナイロンも引張り強度では45kgまでの力に耐えられる強度を持っています。パッキング時に強引に力を加えないかぎり、そうそう45kgを越える力が加わる事は無いと思えます。
引裂強度検査:生地の引き裂きに対する強さを調べる検査。2cm程の切り込みを入れた生地がどれだけの力に耐えられるかを調べます。
Codura Nylon Ripの生地の厚さは、1.3oz のシルナイロンとほぼ同じです。
Codura Nylon Ripが弱すぎると見るよりも、シルナイロンの強度が特別と見たほうが良いでしょう。また、FlamePack ONEに使っている70 Denier PU Coated Ripstop nylon fabricは、引張強度ではシルナイロンより強くても、引裂強度ではシルナイロンよりも強度が落ちる事が分かります。
バックパックでどんな状態かと想像すると、なんらかの力が加わって空いた小さな穴から生地がさらに裂けていく...。という場面を想像します。70 Denier PU Coated Ripstop nylon fabricは、引裂強度では弱い結果となっていますが、小さな穴が空いたり、傷等がついてもリペアテープ等で簡単に補修をする事が出来ます。逆に強いシルナイロンは、リペアテープでの補修がしにくい。という弱点を持っています。
Cuben Fiber は、切り込みを入れた生地に力が加わった時に生地のラミネートが剥がれはじめたときの結果となります。実際には、ラミネートが少し剥がれる状況になっても生地が破断するにはより強い力が必要だと思われます....。*本当は生地が破断する検査結果が欲しかったのですが、JIS規格のペンニュラム法の生地検査では、生地に異常が起きた状態(ここではラミネートが剥離しはじめた状態)での生地検査しか出来ないとの事...。
◯生地の強度と硬さ、ナイロン素材の長所
上記試験結果では、Fibermaxと、キューベンファイバーの強さが際立っています。では、それらの生地が本当に強いかというと、数値だけでは見れない事が実際にはあります。それぞれの生地は従来のナイロン生地と比べて固く伸がありません。ナイロン素材の長所の一つは実はその伸びの部分がある事です。生地が柔軟に伸びる事によって、外部から関わった力を柔軟に吸収します。生地自体が固いと力を吸収する事が出来ずに、ある一定以上の力が加わると一気に破断します。バックパックを例に考えると、Fibermaxやキューベンファイバーをミシンで縫うと、生地が固い事から、ミシンの縫い跡がミシン目のようになり、一定以上の力がかかるとそこから裂けてきます。シルナイロンはシリコンのコーティングによる特性なのか、ミシンなどによる小さな穴が塞がっていくという特性を持っています。
また、キューベンファイバーに使われているダイニーマは超軽量、超強力な素材として注目されていますが、クライミングの現場で使われているロープの主流がいまだにナイロン製であり、ダイニーマ製のロープがあまり選ばれていない事はとても重要な事だと思います。強さとは数値結果だけでなく、その特性を理解をした上で、適材適所にその素材を使用する事が重要です。(伸びの問題だけでなく、融解点が低い事、耐久性の問題などいろいろですが。)上記のFibermaxと、キューベンファイバーに関していえば、突発的に強い力がかかりやすい場所での使用は極力裂けたい所です。
◯生地に関する私見
1.3oz Silicone Coated Ripstop Nylon (aka SilNylon)
小さな穴が塞がっていくなどのシリコンコーティグの特性など、薄さと強度のバランスで考えると非常に優れた素材だと思います。これまで長いハイクで使ってきた中で、シルナイロンに問題があった事は無く、非常に信頼性の高い生地です。ただし、接着剤等が効きにくく補修がしにくいという問題がある事から、摩擦やひっかけなどで穴が空き易い外部ポケットへの使用を避けています。
70 Denier PU Coated Ripstop nylon fabric
引張り強度はシルナイロンよりも強くとも、けっして強い生地ではありません。穴も空き易い素材と言えるでしょう。ただし、リペアテープで簡単に補修が出来るという所に大きな魅力があると自分は感じています。穴があいても補修が出来るというのは、補修がしにくいシルナイロンと比べて大きな安心に繋がっています。
引張り強度はシルナイロンよりも強くとも、けっして強い生地ではありません。穴も空き易い素材と言えるでしょう。ただし、リペアテープで簡単に補修が出来るという所に大きな魅力があると自分は感じています。穴があいても補修が出来るというのは、補修がしにくいシルナイロンと比べて大きな安心に繋がっています。
Fibermax 64(Spinnakers)
シルナイロンよりも検査結果だけみると強い生地になりますが、過去にこの素材でバックパックを試作してみた所、パッキングの際に強い力を加えた際に生地が一気に裂けるという事がありました。突発的に強い力さえかからなければ、安心して使える強度を持つ素材だと思います。ニュージーランドのTe ARAROAで、有刺鉄線の柵を飛び越えるときに、有刺鉄線にサコッシュを引っ掛けてしまった事がありました。バックパックと身体の総量が有刺鉄線にひっかかったサコッシュにかかったはずなのに、生地に穴が空く事があってもサコッシュ自体が裂けるという事はありませんでした。その時に、Fibermax 64の強さを実感する事が出来ました。
シルナイロンよりも検査結果だけみると強い生地になりますが、過去にこの素材でバックパックを試作してみた所、パッキングの際に強い力を加えた際に生地が一気に裂けるという事がありました。突発的に強い力さえかからなければ、安心して使える強度を持つ素材だと思います。ニュージーランドのTe ARAROAで、有刺鉄線の柵を飛び越えるときに、有刺鉄線にサコッシュを引っ掛けてしまった事がありました。バックパックと身体の総量が有刺鉄線にひっかかったサコッシュにかかったはずなのに、生地に穴が空く事があってもサコッシュ自体が裂けるという事はありませんでした。その時に、Fibermax 64の強さを実感する事が出来ました。
70D PU Coated Diamond Ripstop Nylon
生地は新しい時には強いものですが、長いハイクの中で、直射日光にさらされたり、過酷な環境の中でコーティングが劣化してくると、生地は極端に弱くなっていきます。70D PU Coated Diamond Ripstop Nylonの魅力はパフォーマンステキスタイル社による最上のPUコーティングにあると自分は思います。長い年月使用しても劣化がしにくいこの素材は、長時間使用する事でその良さが分かってくる素材なのでしょう。
生地は新しい時には強いものですが、長いハイクの中で、直射日光にさらされたり、過酷な環境の中でコーティングが劣化してくると、生地は極端に弱くなっていきます。70D PU Coated Diamond Ripstop Nylonの魅力はパフォーマンステキスタイル社による最上のPUコーティングにあると自分は思います。長い年月使用しても劣化がしにくいこの素材は、長時間使用する事でその良さが分かってくる素材なのでしょう。
CTF3 Cuben Fiber
最軽量の数々のアウトドアギアに使われてきたキューベンファイバーは超軽量、超強力のすごい素材です。ただし、この素材もFibermax 64と同じく生地が固く伸びが無い素材になりますので、突発的に強い力がかかる箇所に使用するのは避けたいと思います。山と道ではバックパックのポケットに使用したいと考えています。
最軽量の数々のアウトドアギアに使われてきたキューベンファイバーは超軽量、超強力のすごい素材です。ただし、この素材もFibermax 64と同じく生地が固く伸びが無い素材になりますので、突発的に強い力がかかる箇所に使用するのは避けたいと思います。山と道ではバックパックのポケットに使用したいと考えています。
◯山と道の道具と生地に関して
ニュージーランド577kmのハイクテストの結果、MINIに関してはほぼ無傷でした。
FlamePackONEは、最終日にポケットに小さな穴が空いている事に気がつきました。
穴が空いてもリペアテープを貼る事で簡単に補修する事が出来ます。
過去に雪山で使用した長時間使用した際に、フロントにくくりつけたスノーシューがひっかかったのか、ポケットに小さいな穴が開く事もありました。長時間使用していく事で穴が開くものと思った方が良いかもしれません。リペアの跡が増えると、ジーンズを修理するのと似て、より愛着を持って接してもらえるとありがたく思います。
山と道サコッシュ。有刺鉄線にひっかかったときに空いた穴。裏側からリペアテープで補修。