7.05.2014

HIMALAYA CALLING ふりかえり1 「ヘランブー・ランタン・トレック~カトマンズからヒマラヤまで歩く旅~」三田正明


山と道ブログ読者のみなさまはじめまして。ライター/フォトグラファーの三田正明と申します。
今回、光栄にも山と道夏目さんからのご指名を受け、これから数回に渡って2014年の6月7日に東京西麻布のCALM & PUNK GALLERYで行われた山と道主催のトークイベント“HIMALLAYA CALLING”のイベントレポートを勤めさせていただきます。実は自分も登壇させていただいたイベントなのでどこまで客観的にお伝えできるか自信がないのですが、どうぞよろしくお願いします。

さて、このブログの読者の方々ならご存知の通り、山と道のお二人がこの春にヒマラヤを旅したことに端を発するこのイベント。お二人が出発前に相談した自分を含む4人のヒマラヤ経験者を招き、それぞれの視点でプレゼンテーションを行うことで「深く大きい」ヒマラヤの魅力を紹介しました。

さらに京都のプラントラボさんにより、ネパールを旅するトレッカーならば一度ならず食べることになるネパールの超名物料理「ダルバート」のケータリングも供され、マサラの香り漂う会場はヒマラヤ一色に染まりました。

個人的にもヒマラヤはこれまでもっとも衝撃を受けた山域であり、ネパール・ヒマラヤならばロッジ文化が定着しているためキャンピング装備を携行しないで身軽に旅ができ、また物価も非常に安いためガイドやポーターを雇わなければ(一般のトレッキング・ルートならば問題なく旅ができると自分は思います)コストの面でもライトウェイトに済むため、是非ハイカーにこそ旅をしてほしいとかねがね思っていました。

今回のプレゼンターの方々はそれぞれが写真家であったりトレッキングガイド経験者であったり映像作家であり、プロフェッショナルな立場でヒマラヤに携わってきたため、スライドショーの内容も非常に内容が濃く、美しい写真も多かったように思います。

それを会場に訪れた人だけでシェアしているのはあまりにももったいない!

というわけで、このアーティクルでは会場に来られなかった人にもイベントを追体験していただきたく、当日のプレゼンテーションの様子をなるべくノーカットでお送りしたいと思います(ダルバートは食べられませんが…)。少々長くはなるかとは思いますが、これから始まる記事がいつかヒマラヤへ行こうという人への旅のヒントや助けになれば幸いです。

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HIMALAYA CALLING  プレゼンテーション♯1「ヘランブー・ランタン・トレック~カトマンズからヒマラヤまで歩く旅~」三田正明

さて、第一回目のイベントレポートは、何を隠そうワタクシ、三田正明のプレゼンテーションから始めさせていただきます。
自分はまだ山を始めて間もない頃にヒマラヤのアンナプルナ山群を訪れて衝撃を受けて以来本格的に山にのめり込み、気がつけばライター/カメラマンの仕事もほぼアウトドア関連専門になった男です。
それからヒマラヤにはエベレスト山域、今回のテーマであるヘランブー・ランタン山域と、数年おきに三度訪れているのですが、他のプレゼンターの方々のように普通の人ではなかなか歩けないようなところを歩いたり、たくさんの場所を知っているわけではありません。
ですが、あえて普通の旅行者目線で、一般的なトレッカーがソロでヒマラヤを歩いたらどんなことを感じるかを、去年の春に歩いたネパールのヘランブーとランタンのトレイルに絡めてお話させていただきました。

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「こんばんは、ライターとカメラマンをしている三田正明と申します。今日は去年の春に2週間弱かけて歩いたヘランブー・ランタン・トレックというトレイルについてお話させていただきます。ヘランブー・ランタンと言ってもまったく知らない方も多いかと思いますので、まずはこの場所について簡単に説明させてください。ヘランブーとランタンはエベレスト街道やアンナプルナ周遊と並ぶネパールの三大人気トレイルのひとつで、それぞれ独立したトレイルなのですが、隣り合っているため繋げて歩く人が多いので一緒くたに語られることが多いトレイルです。」




「まずヘランブーの特徴なのですが、トレイルヘッドがカトマンズに非常に近いため市内から路線バスやタクシーで行けてしまいます。他のトレイルは長距離バスやジープで丸一日かけて行ったり、飛行機を使わなければいけない場合が多いので、これは大きな魅力ですね。やろうと思えばカトマンズの中心部から歩いて行くこともできます。トレイル上にゴサインクンドという湖があるんですがそこはとても美しい場所で、そこへと至る標高4610mのローレビナ・パス越えもこれぞヒマラヤという場所を歩けます。そして歩く人が他の人気トレイルと比べて比較的少ないので、静かなトレイルを楽しむことができます。ですがアップダウンが激しい箇所が多いので、歩くのは少しハードですね。そしてランタンは『世界で一番美しい谷』と言われることもあるきれいな渓谷です。僕は実際に見ていないのですが6月の雨期になると谷中を高山植物が埋め尽くす『花のトレイル』としても知られています。トレイルも比較的ゆるやかで初心者にも歩きやすく、奥まで行って帰っても一週間くらいなので割とイージーに氷河のあるようなヒマラヤの魅力の核心に触れることができます。このふたつを繋げて歩く場合、ローレビナ・パス以南のトレイルのアップダウンが非常に厳しいのでそこを下り基調で歩くため、まずランタンから歩き始めてヘランブーを下るのが基本とされているのですが、僕はカトマンズからヒマラヤまで歩いて行ってみたいなと思い、あえて逆ルートを選びました。実際アップダウンは厳しかったですがヘランブーでは同方向に歩く人がほとんどいなかったので他人にペースを乱されることもなかったし、だんだんヒマラヤの高峰に近づいていくので気分的にも多いに盛り上がり、良い選択だったと思いました。」





 「それで今回なんでヒマラヤに行ったのかというと、実はうちの奥さんがヨガの先生をやっているんですが、インドでヨガ哲学の勉強をしたいと言いまして。その授業が2週間くらいあって、その間子守りをして欲しいと(笑)。奥さんも結婚前にアンナプルナを一緒に歩いた経験があるので、『そのあとネパールに行ってトレッキングすればいいじゃない』と口説かれまして、それで家族でインド~ネパールと全部で1月半の旅に出たんです。だから本当は最初トレッキングにもひとりで行くつもりじゃなくて、息子も連れてランタンへ家族で行く計画だったんですね。でもインド滞在中に息子が食あたりで倒れて入院する騒ぎになって、なんとかネパールまでは来たんですがトレッキングに出発する予定の前々日にやっぱり食あたりになってしまい、衛生状態もさらに悪くなる山の中へ連れていくのは無理だろうと判断しました。そうして奥さんと子供は先に日本へ帰ることになり、急遽ひとりで行くことになったんです。」




「ここが今回のトレイルヘッドになったスンダリジャルという村ですね。カトマンズの外れの山の縁にある村で、東京でいうと高尾山口みたいな場所でしょうか。今回の旅は高尾山から日本アルプスとかまで歩いて行くようなことを思ってもらえるとイメージしやすいかもしれません。そうしていよいよ歩き始めたんですが、いきなり大事件にあってしまったんです。」





「歩き始めて2時間くらい、『ついにヒマラヤへ帰ってきたぜ~!』みたいな気分で、もうウキウキで歩いていたんですけれど、4人組の若いネパーリーとすれ違いました。山の中なのに何故かマスクをしているんです。カトマンズは空気が悪いのでマスクをしている人が多いんですが、『なんで山の中でマスク?』と、変だなとは思ったんです。そのまま歩いていると、横の林をかき分けて何かの動物が全力疾走しているような音が聞こえたんですね。『狩りでもしているのかな?』と思っていると、いきなり首の後ろに拳二つぶんくらいの石がぶつけれられて、『何だ!?』と思ってクラクラしながら振り返ると、さっきの四人組のうちの三人が、ネパールの人がよく持っているグルカナイフという短刀を出して、迫ってきたんです。あとのひとりが林の中から石を投げてきて、つまり狩られているのは自分だったんです。『有り金とカメラを寄越せ、殺すぞ!』と脅されて、なんだかおバカな主人公が旅に出ていきなり身ぐるみ剥がされるみたいな、B級映画の主人公になったような気分でした(笑)。ネパールの山岳民はめちゃくちゃ歩くの早いし、こちらは10キロ程度は荷物を背負っているし、前後1時間くらいは村のない山の中で、逃げられるわけないんです。武器なんかもちろん持っていないのでとりあえずトレッキング・ポールを相手に突きつけて、近寄らせないようにしながら立ち止まらずに後ずさりしながら、とにかく言いなりになっちゃヤバいと思って、なんとか会話の主導権を握ろうとしました。『カメラはやれない。いくら欲しいのか言ってみろ!』『全部だ!』『ノー! 1000ならやるぞ』『ドルか?』『ルピーだ!』みたいなやりとりをして(笑)。とにかく『助けて! 殺される!』って叫び続けたんです。向こうもプロの山賊じゃなくチンピラだったので結構びびっていたみたいで『叫ぶな! 叫ぶな!』と言ってました。とにかく歩きながら財布から1000ルピー取り出して、投げると同時に走って逃げたんです。見晴らしの良い場所で後ろを振り返ると誰も追ってきてなかったんで、心の底からほっとしました。」




 「でもその瞬間、『彼らは自分に何かのメッセージを授けるために現れた天使だったのかな?』と思ったんです。インドで自分も奥さんと一緒にヨガ哲学を少しかじった影響だと思うんですが(笑)。ヨガ哲学によるとこの世界に偶然はなくて、すべて起こるべくして起こっているというんですね。そして起こることにはすべてサインが隠されていると。よく『カルマの法則』とか言われるやつなんですけれど。だからこんな旅の最初にこういう目に会うってのは、明らかに何かのメッセージだよなって思ったんですね。自分の甘さにお灸を据えられた気がました。やっぱりこんな場所にまだ三歳にもなっていない子供を連れてくるべきじゃなかったんだと。実は子連れ旅の装備も充分じゃなくて、子供用の背負子を人に借りて持っていってたんですが、それが自分に全然サイズがあっていないことがネパールに行ってから発覚したりして。見通しも甘かったし、準備も足りていなかった。奥さんにも『山賊いるかもしれないから気をつけてね』なんて言われてたんですけれど、『そんなのいないよ~』って笑い飛ばしていたりして(笑)、もうヒマラヤ歩くのは三回目だし、どんな場所かはわかっているつもりだったんです。でも後で地元の人に事件の話をすると、『午後4時以降にひとりで歩いちゃいけない』とみんなに言われて、そんなこともわかっていなかった。いきなりそれを思い知らされたというか。」




「まあそんな感じで歩き始めて、最初はやっぱりアップダウンが激しくて、春だと靄がかかっていてヒマラヤも見えないので、最初の数日はあまり楽しくないですね。それで三日目くらいで、ようやくこの写真みたいに「これぞヒマラヤ!」という景色がどどーん見える場所までやってきました。いよいよ本当のヒマラヤの旅が始まる瞬間ですね。この山がヘランブー山脈で、ローレビーナパスはこの左の鞍部を越えていきます。」



 

「ヘランブー一帯の宿の部屋はだいたいこんな感じです。全部手作りで、壁もベニヤ板一枚とかなので隣の部屋に人がいると声が筒抜けなんで、僕はなるべく他に人のいなそうな宿を選んで泊まっていました。ともあれこんな部屋ならまだマシな方で、なかには窓のない牢獄のような部屋の場合もあります。」



 

「そしていよいよローレビナ・パスを越えていきます。前日泊まっていた場所から900mくらい標高を上げるのですが、3700mから4600mくらいまで登るので結構大変です。とにかく息が切れて、心臓の音がすぐ耳の側で鳴っているのが聞こえますね。この時は中腹くらいで頂上が見えた気がして、『意外と楽勝だったな』なんて思ったんですけれど、そこまで登ってみたら頂上はまだ200mくらい上で、心がパキッと折れました(笑)。そこからは10mくらい登っては息を整えるような感じで登っていきました。」



 

「そうして頂上に着いたらこんな景色が広がっていました。ローレビーナの峠の上はゴサイクンドまで100個以上の湖が点在する幻想的な雰囲気の場所です。この時は誰も他に歩いていなくて、こんな世界を独り占めできる幸せを噛み締めながら歩きました。」



 

「そこから1時間ほど下るとゴサインクンドというヘランブー・トレックの目玉の湖に到着します。まさに「雲上の聖なる湖」という雰囲気で、実際ヒンドゥー教の聖地なんですが、確かに『ここが聖地じゃなかったらどこが聖地なんだよ!?』っていう場所です。ここは物価も高いし宿もボロくて狭いんですけど、そんなの問題じゃないくらい最高に美しい場所でした。」



 

「いよいよヘランブーからランタン谷へと下っていきます。ゴサインクンドをから1時間ほど行くとこんな景色が広がります。アンナプルナやダウラギリが一望できますね。そしてこれがランタン・ヒマールの主峰ランタン・リルン。ランタントレックはこの山の足下の谷をつめて行きます。」




「ここから少し下ると数日ぶりに森林限界の下に降りてきて、シャクナゲが満開になりました。シャクナゲはヒマラヤの名物で、ネパールの国花です。アンナプルナのあたりのシャクナゲはもっと色が濃いのですが、ここらへんのは薄いピンク色でとても綺麗ですね。一口にヒマラヤと言っても、エベレストやアンナプルナとこのランタン・ヘランブーではそれぞれ違う魅力があります。ランタンは女性的というか、しっとりとしたみずみずしい美しさがある場所でした。」




 

「そうしてランタン谷まで降りてくると人がぐっと増えて、メジャーなトレイルに来たことを感じました。ランタン谷はこんな風になだらかな広い峡谷をランタン・コーラという河沿いに登ってゆきます。」



 

「ふたたび標高を上げて森林限界線を越えると、また景色は荘厳な感じになってきます。このランタン谷の奥はチベット人たちが住むエリアで、これはその中心地のランタン村です。ここはチベットの国が無くなっちゃったときに亡命してきたチベット人たちが作った村で、標高が高くて畑仕事ができないので、おそらくヤクや羊を飼って細々と暮らしてたんだと思うんですが、こうしてトレッキングが産業として大きくなった結果ここにもロッジが立ち並ぶようになり、このへんのチベット人はまあまあ潤っているようです。」



「チベット人ってダライ・ラマのイメージがあって『信心深いピースフルな人たち』みたいな印象があると思うんですけれど、実際に会ってみると結構アグレッシブで、押しの強い人たちが多いです。宿の客引きもネパール人はあまりしないんですけれど、チベット人は結構強引で、インド人に近いというか(笑)。まあそんなふうにネパール人とチベット人の気質の違いを感じられるとこもランタンの面白い所です。」




 

「このランタン村から先はマニ石というお経の彫られた石がトレイルのわきにずーっと並べられています。故郷を失ってこんな山の奥に住み着いたチベット人たちが、ここを第二の故郷にしようと並々ならぬ努力をして逞しく生きていることを考えると、ちょっと泣けてきますね。」



 

「ここがランタン・トレックの終点のキャンジン・ゴンパという村です。村と言ってもロッジしかありませんが。ここまで来るとかなり地の果てまで来たような気分で、大都会のカトマンズからこんな場所まで歩いてきたことを考えると感慨もひとしおでした。」



 

「ランタン・トレックを歩く人はキャンジン・ゴンパまで来ると、この丸で囲ってあるツェルゴ・リーという山へ登るかその隣のキャンジン・リーという山に登るか、もしくはここから往復丸一日かけてラングシシャ・カーカという氷河の終点まで行くか、大抵2泊~3泊します。それで僕はとりあえずラングシシャ・カーカへ行ってみました。ここはガイドやポーターなしのソロ・トレッカーとして行ける一番奥地で、旅の間もずっとここを目指して歩いていたんです。」



 

「キャンジン・ゴンパから先はまったく人の住んでいないエリアなんで、ラングシシャ・カーカへ行ったらウィルダネスな気分を味わえるんじゃないかと思っていたんですね。でも、どこまで行っても放牧されているヤク(ヒマラヤの高地に住む毛長牛)がいて、草原で休もうにもどこもかしこもヤクの糞だらけでなかなか休めない。ヒマラヤと言うと手つかずの大自然みたいなイメージを持つ人も多いと思うんですが実はそうでもなくて、山の上にでも行かない限り谷や平原にはどこまで行っても人の手が入っています。で、半日かけて終着点までたどり着き、たしかに景色は素晴らしかったんですが『旅の終着点はまだここじゃないな』という気がして、次の日にツェルゴー・リーに登ることにしました。」



 

「ツェルゴー・リーはキャンジン・ゴンパの裏手に聳えている4984mの山で、この山を登るとその向こうはチベットです。谷を登ってくる間ずっとこの山が見えていてるランタンのシンボル的存在で、谷のチベット人たちが聖山としている山でもあります。ここもキャンジン・ゴンパから900mくらい登ります。ローレビーナ・パスで心が折れた経験があったので(笑)、なるべく先を考えず淡々と登ることだけを心がけました。でもこの頃には高度順応ができていたので、思ったよりもサクサクと登れましたね。でもまわりの人はみんな息も絶え絶えで登っていたので、自分も先にランタンへ来てここへ登ってたらけっこう大変だったかもしれません。」



 

「で、やっぱり標高をあげるとぐんぐん景色も変わってきて、気持ちもどんどん上がりました。先に登っていた人をほとんど追い越して、山の向こう側が見えるあたりまで来ると完全にナチュラルハイというか、『まさにここがこの旅の終着点だ!』という気持ちになり(笑)。頂上に着くと幸運にも誰もいなくて、素晴らしい景色と気分をひとりで満喫することができました。ランタンは谷間なのでヒマラヤのパノラマはなかなか見えないのですが、このツェルゴ・リーの上まで来るとやっとヒマラヤの6000~7000m峰が立ち並ぶパノラマを間近で見ることができます。」



 

「日本の山も外国の山もそれぞれの良さがあるし、基本的には山に優劣はないと思うんですが、でもやっぱりヒマラヤは別格だと思います。ヒマラヤ以外の山を見るとき、僕は『神が作った素晴らしい創造物』みたいなことを感じるんですけれど、ヒマラヤは『神そのもの』みたいに感じるんです。まさに神に対面しているような気分というか。僕はやっと自分の神様にまた会えて、非常に満足でした。で、20分くらいひとりで感慨に浸っていたんですけれど、僕の次にガイド付きのイギリス人の女の子二人組が上がってきたんですね。すると何故かその子たちはするするっと僕の隣に座ってきて、『コングラッチュレーション! イッツ・ワンダフル!』みたいに声を掛け合って、『どこから来たの?』『ロンドン』『WOW! ロンドンの音楽大好きだよ』『東京もクールね』みたいな他愛もない会話をしていたんですが(笑)、そしたらその子たちが『私たちのガイドがランチを持ってきているんだけど、食べきれないから一緒に食べましょ♪』なんて言うんです。ツェルゴ・リーは上り下りに6~7時間かかるんでみんなランチを持ってくるんですけど、僕は一人だったんでビスケットとナッツくらいしか持っていなかったんですね。この旅の終着点までひとりでやってきたら女の子が現れて、お昼ご飯までご馳走してくれるなんて、なんて幸運なんだろうと(笑)。まるで自分の旅の終わりを祝うためにここに現れてくれたみたいで。で、この子たちも天使だと思ったんですね。インドでヨガ哲学を勉強したり、子供が倒れたり強盗に襲われたりいろいろな紆余曲折があってここまで辿り着いて、でもすべて起こるべくして起こったし、これで良かったんだって。勝手な思い込みかもしれませんが(笑)。でも、僕は旅の醍醐味ってこういう瞬間にあると思うんです。『この旅はここに来るためにある旅だったんだ』と思える瞬間というか。そのサインとして彼女たちが現れたような気がしました。まあ、そんな感じで強盗に始まりイギリス人の女の子に終わる、二組の天使に出会った旅でした(笑)。」





三田正明 プロフィール
カメラマン/ライター。

雑誌スペクテイターを始めアウトドア雑誌等で旅やハイキングに関する多くの記事を執筆。TRAIL CULTURAL WEBMAGAZINE TRAILSではエディターも勤める。2007年からこれまでにヒマラヤへは3回訪れている。