5.20.2016

残雪の西鎌尾根

ゴールデンウィークの後半。悪い天気の合間を縫って北アルプスにソロで入りました。
アクセスは新宿からの始発の高速バスで平湯に行って、そこからタクシーかバスで新穂高の登山口に入る予定。だったのが、完全に寝坊。とりあえず出発するためにシャワーを大急ぎで浴びているうちに、予約したバスの時間変更を思いつく。確認をするとギリギリ時間変更が可能とわかり、次の時間のバスを再予約。鎌倉から新宿に到着してからバスタでの乗り換えが数分しかなというドタバタでの出発となりました。平湯到着が1245分ころの到着予定。となると新穂高の登山口をスタート出来るのが1330分前。日が沈むのは18:00頃。行動時間は4時間30分。新穂高からどこに向かうか。慣れた八ヶ岳なら雪でもナイトハイクでキャンプ場まで歩く事はあっても、不慣れな雪の北アルプスで日が暮れてからの行動はしたくない。地図をよくみて考える。鏡平までコースタイム5時間10分。林道はもう夏道で雪は無いだろうから。そこを飛ばしていけばギリギリ暗くなる前に到着出来るだろうと踏む。


今回の山は天気の悪さもあって直前までどこに行くか迷いに迷いました。できれば3日は山に入りたいと思い、新穂高から黒部五郎を越えて、北ノ股岳から打保に抜けるか、または新穂高から残雪の裏銀座ルートを歩くか。天気が回復しないようであれば、1泊に変更して、三俣蓮華周辺を回って帰ってくるか、雪の調子をみて行けそうなら念願だった残雪の西鎌尾根を越えて上高地に降りるという選択を考えてました。結局登山口を決めたはいいけど、ルートは決められず。山に入ってから翌日のヤマテンの予報を見て判断をする事にしました。

バスは予定通りに平湯に到着。急いで降りるとすぐに新穂高行のバスが出るとアナウンスがあったので、すぐに乗り換える。13:20分頃に新穂高ロープウェイに到着。急いで行動用の水などを買っていざ出発。という段階で、THREEのウエストベルトが片方無い事に気がついた。多分ウエストベルトがバックパックにしっかりとハマっておらず、急いでバスを降りる際にどこかにひっかけて落としたのではないか….。残雪とはいえ雪の装備で一応3日分の食料を用意をしているからそれなりにバックパックも重い。水入れて1213kgぐらいだったのかと思う。ウエストベルトのプラスチックパーツはしっかりとハマっているか確認しないとダメだ。仕方がなく腰荷重は諦めて、MINIのように、ぐっとショルダーベルトを引いて上半身に荷重を集中させる。お!けっこう軽いじゃん。行けるじゃん。と手前味噌ながらに思う。


心をいれかえて急ぎ足で登山口へと向かう。雪が残る山々を抱える景色はヒマラヤを思い出す。
林道を予定通りコースタイムよりも30分程早く抜けて登山口に到着する事が出来た。
登山口からは谷あいという事もあって残雪が残る山を歩いていく。ヤマテンの予報では12時に槍ヶ岳で-3 風速30mの西風という暴風の予報が出ていたが、体感温度は5度以上、稜線に阻まれて風はこない。沢筋の道はところどころ登山道が出ていたので少しルートは分かる事もあったけど、秩父川を渡渉する(この時期は橋がかかっていない。)頃には登山道は見えなくなり、各々自由に歩いた踏み跡が散らばるようになった。


林道では帰ってくる人に何人か会う事もあったが、この時間に登る人はもういない。雪が深くなってくると、降りてくる人もいなくなった。見渡す範囲に誰もいない。GWの後半、天気が悪いとはいっても本当に人が少ない。上高地側とはえらい違いだ。地図を見ながら、歩きやすそうなルートを選んでいく。バックパックがとても重い。腰荷重が出来ないので、ずっと上半身で背負っているのがつらくなってくる。シシウドガ原あたりで少し急な斜面をアックスで登って日が暮れる直前に鏡平に到着。静かな時間に槍ヶ岳、穂高、西鎌尾根の絶景が広がった。


鏡平の小屋もまだ半分埋もれていて、池も少し顔を出しているけど大半は埋まっていた。八ヶ岳も南アルプスも、谷川岳も雪がほとんど無いと聞いていたので、この雪の量は嬉しい。小屋の周辺にはまばらにいくつかテントが張ってあった。


僕も早速、誰からも見えない場所に、eVnetのクフを張る。ストックは110cmの短いZPoleなので、足りない長さを途中で拾った手頃な木を2本の結束バンドで必要な長さに連結する。ペグの代わりに同じく拾った枝をシェルターの細引きに連結して、アックスで雪をほって、縦ではなく横向きに軽く埋めてスノーペグにした。これは昨晩まで家に泊まっていた豊嶋さんから教えてもらった方法。

電波は弱かったがどうにか翌日のヤマテンの予報を見る事が出来た。予報だと明日の午後から明々後日まで天気がずっと崩れる予報。暴風雨は西風で、裏銀座の稜線は風がもろにあたる。行動不能に陥るのが怖い。黒部五郎も暴風雨を避けるには黒部五郎の小屋周辺にシェルターを張る必要があり、そこから次の日に行動するには3日で抜けるのは少々つらいし少し中途半端にも感じた。西鎌尾根をみるとだいぶ雪が溶けているように見える。雪の感じも悪く無いので、翌日は天気が崩れる午後までに槍ヶ岳まで抜ければ暴風からはぬけ出す事が出来るので、下山する事に決めた。



DAY02



快晴とまではいかないが、悪くない天気。朝ごはんとしてラーメンを食べて520分ころに出発。鏡平から稜線までの急な斜面をアックスを使いながら直登していく。けっこうな高度感。




三俣蓮華方面

稜線に出て西鎌尾根を目指す。雪もしまっていて歩きやすい。双六小屋に向かう手前で、登山道から離れて、雪で歩きやすくなった道を樅沢岳まで直登する事にした。



途中大きなアイゼンの足あとらしきものをみつけた。よく見ると、前爪が3つもあるじゃないか…。ネットで調べてみたら熊の足あとだった。前に立山に向かう登山道でも熊と接近遭遇する事(向こうがヤブの中にいたので、一部分の毛しか見えなかったけど)があったが、北アルプスで熊の足あとをみたのは初めて。ネットの過去の履歴でも残雪期に双六小屋周辺に熊が出ていたという記事がアップされていたから普通にいるんだなと知った。誰もいない山の中で人の足あとではなく熊の足あとを見つける贅沢。星野道夫さんの本の一節に、熊がいる森の中にいれる事がうれしい。というような内容があったように記憶しているが、まさにそんな幸福感に包まれる。どこかにいないかしらとキョロキョロしてみる。




光る雪の斜面を登って西鎌尾根に出る。トレースもほとんど無くて、たまにうっすらとソロの登山者の足あとが見つかる。このGWもほとんど人は入っていなんじゃないだろうか。鏡平から見えた南側の斜面は雪がだいぶ溶けていて登山道もだいたい顔を出していたが、北側の斜面はまだまだ雪が積もっていて登山道も雪の中。でも崖というよりも滑らかな雪の斜面という感じで、雪も凍っていないから、特段に怖さも感じない。



崖のような急な斜面を降りる際には斜面の途中まで滑ってアックスで滑落停止して歩くなど雪道ならではの楽しい行動をする事が出来た。誰もいない。誰も見えない。やはり一人で歩く事はとても幸せだ。二人やみんなで歩く事もいいが、ここぞという時はやはり一人がいい。雪崩が怖いので極力稜線を歩いて行く。風もまだそれほど強くなくて、実に快適なハイクだった。途中喉が乾いて水も無くなりそうだったので、雪を溶かして水を作る。浄水器を会社においてきてしまったので、溶かしただけの雪はどうにも泥臭い。インスタントコーヒを混ぜて、アイスコーヒーにした。





先月まで病気で寝込んでいたり、会社の工事で山になかなか入れなかった事もあって、身体の疲れが早い。すごく気持ちは良いけれど疲れがひどくなってくる。ペースは遅くなってきて、正午に近づいてくる。風もどんどん強くなってきた。西から雨雲が近づいてきている。千丈沢乗越をこえたあたりから槍ヶ岳までの長い、急な登りがはじまる。身体にムチをいれるために、ヘッドフォンを耳に挿して好きな曲をかける。精神的に追い込まれていく心が音楽に過剰に反応して感情爆発を起こすのだ。泣きそうになりながら叫び、アックスを雪に差し込む。もくもくと雪の斜面を登っていく。ある程度調子が出てくると、身体にセカウンドウインドと呼ばれる第二の波が押し寄せてきてまた身体が快調に動き出してくる。




長い雪の急な斜面をずっと登る。白い雪の斜面が広がり、遠くに飛騨乗越から降りてくる登山者が雪の中に小さい黒い点のように見えた。斜面にアックスとアイゼンで身体を支えて立ち、絶景を見渡す。この長い急な斜面が西鎌尾根のハイライトだった。急で長くて、ここを降りるのは怖いと思う。雪が固く凍っていたら行きたくは無い。



12時30前に槍ヶ岳に到着。槍ヶ岳は岩と氷と雪のミックスで、登っている人は一苦労していそうだった。僕はもう十分満足しているので、槍ヶ岳の頂上には向かわず、ボロボロにつかれた身体にカレーライスを入れるために小屋で休憩する。1時前に小屋を出発すると、雪が降り始めた。



6時のバスに間に合うために、槍ヶ岳からの斜面を一気にシリセードで降りて谷に入っていく頃には雪は雨に変わった。レインジャケットを着て、下はテスト中のウインターパンツ。流石に長いシリセードの圧迫に耐え切れず、防水素材ではあるけれどもパンツは雪に濡れる。雨の森の中を快調にハイクしていく。雪もだいぶとけていて、緑が雨に濡れて美しい。静かな雨のハイクもいいものだなとしみじみと感じた。

バスにのるまえにできればお風呂にも入りたかったので出来るかぎり急いだ。5時20分に小梨平に到着して5分だけお風呂に浸かり、ギリギリ6時の終バスにのって帰る事が出来た。今回は主にテスト中のアルファアノラックとウインターパンツのテストが目的で十分にいいフィールドテストが出来ました。